
ありがとう。でも、僕は子供じゃない。
【ADHDと結婚④】
「ねえ、明日の予定、覚えてる?」
「薬、ちゃんと飲んだ?」
「脱いだ服は、洗濯カゴに入れてって言ったよね?」
ADHDのパートナーを持つ彼女の、その言葉の一つ一つは、決して、間違っていません。 それは、二人の生活を、なんとか、円滑に進めようとする、愛情と責任感の現れのはずです。
しかし、その言葉をADHDの彼にかけるたびに。 彼の心の中では、小さな「反発心」が生まれていく。 そして、彼女の心の中では、「なぜ、私ばっかり」という深い「孤独感」が積もっていく。いつの間にか、二人は、対等な「パートナー」ではなくなります。 ADHDの彼は、管理される「息子」に、彼女は全てを管理する「母親」に。
はじめまして、「凸凹ADHD」のデコさんです。 今日は、ADHDのパートナーシップで、最も多くのカップルが陥り、そして、二人の「愛」を、静かに、殺していく、「親子関係」という名の、悲しい罠の正体についてお話しします。
この不健全な関係性が、生まれてしまうのは、決してどちらか一方が悪いからではありません。 それは、お互いの「脳の違い」が、二人を無意識のうちにその「役割」へと押しやっているからです。
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ADHDの彼が、「息子」になってしまう理由
ADHDの脳は計画を立て、物事を順序だてて実行するのが苦手です(実行機能の課題)。 その「不器用さ」から、日々のたくさんのタスクの前で立ちすくんでしまう。 そして、そのどうしようもない無力感から、逃れるために、いつしか全ての「管理」を相手に委ねてしまうのです。
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彼女が、「母親」になってしまう理由
彼女は、その彼の「不器用さ」が生み出す日々の小さな「混乱」に耐えられません。 だから、二人の生活を守るために立ち上がるしかありません。彼のスケジュールを管理し、彼の忘れ物を先回りして防ぐ。 それは、ごく自然なそして愛情に基づいた「防衛反応」なのです。
しかし、そのお互いを想うがゆえの「役割分担」が、皮肉なことに、二人の関係を、少しずつ蝕んでいきます。
彼女は、増え続ける「責任」の重圧に一人苦しむ。
「なぜ、私ばっかり我慢しなければならないの?」という、当然の「憤り」が心に積もっていく。
ADHDの彼もまた、彼女の「管理」の下で息苦しさを感じ始める。
「僕は、子供じゃない!」という「反発心」が、彼をさらに無責任な行動へと駆り立ててしまうのです。
そして、いつしか、二人の間には温かい「愛情」ではなく、お互いの「尊敬」が\\失われてしまうのです。
僕が、離婚の淵で、気づけなかったこと。それは、あの頃の僕は、まさに、この罠の真っ只中にいました。 元妻が、僕の全てを管理しようとすることに、僕はただ反発し心を閉ざしていた。 彼女もまた、僕のあまりにも無責任な姿に深く絶望していたのだと思います。
もうお互いを対等な「大人」として信じることができなくなっていました。
この悲しいループから抜け出すための第一歩。 それは、二人が、もう一度、対等な「チームメイト」に戻ると固く決意することです。
ADHDのパートナーは、ADHDの彼を「管理」するのをやめる。 そして、ADHDの彼が、自分の「脳の特性」と向き合い、自分の人生の「責任」を引き受ける。
そのために、僕らが今日から始められる具体的な「戦略」があります。 それは、お互いの「強み」に基づいて、役割分担をもう一度見直すことです。
例えば。 洗濯物を回すという、中断の多い作業は在宅で仕事をする彼女が得意かもしれない。 しかし、家計を管理し未来の計画を立てる、という長期的な視点が必要な作業は、ADHD彼の「過集中」が、最高の力を発揮するかもしれない。
「できないこと」を嘆くのではなく。 お互いの「できること」を、持ち寄り、最高のチームを、もう一度、作り直す。 それは、決して、簡単な道ではありません。 しかし、その困難な道の先にしか、僕らが、本当に、求めるべき、お互いを、尊敬し合い、支え合える、最高のパートナーシップは、待っていないのですから。
【ADHDと結婚】シリーズの最初の記事はこちら
【ADHDと結婚シリーズ】
①結婚できますか?
②なぜ些細なことから喧嘩になる?
③ADHDだから仕方ないじゃないか
④ありがとう。でも、僕は子供じゃない。
⑤こんな人とは結婚しないで
⑥「察してちゃん」という名のサイレントテロリスト
⑦ADHDはどんな人と結婚する?
【ADHD離婚シリーズ】過去の自分と向き合った離婚シリーズはこちら
①一つのことにしか意識を向けられない不器用な真実
②「寄り添ってほしい」と言われた僕が、途方に暮れるしかなかった理由
③僕の「得意なこと」は、なぜ努力として認められなかったのか。
④「それくらい自分で考えて」が、僕には一番難しい呪文だった。
⑤なぜ僕は「名もなき家事」が全く見えなかったのか。
⑥なぜ僕らは、「二人でいる時」が一番孤独だったのか。
⑦妻のイライラから「逃げる」以外の選択肢を、なぜ持てなかったのか。
⑧なぜ僕は、妻からの「パシリありがとう」に喜んでしまったのか。