凸凹ADHD

 

 

最終的なドーパミンとの付き合い方
【ADHDとドーパミン⑧】

 

「結局、ADHDとドーパミンって、どう付き合えばいいの?」

これまで7回にわたり、僕らの脳の「ドーパミンを求める性質」について書いてきました。

衝動性や依存の「罠」(記事⑥)、そして「良いドーパミン」活動(運動など)ですらやりすぎてしまう「燃え尽き」(記事⑤)についても触れました。 また、その背景には、単なる意志の弱さではなく、「現実からの逃避」や「退屈・孤独」、そして「生活の土台の崩壊」といった、もっと根深い原因が隠れていること(記事⑦)も見てきました。

はじめまして、「凸凹ADHD」のデコさんです。 今日はいよいよ最終回です。これまでの知識をすべて使って、「じゃあ、どうすれば僕らの脳のクセを最大の武器に変えられるのか?」という、ドーパミン活用術についてお話しします。

僕らの『やる気』の源であるドーパミンが、コントロールを失って過剰になったり、逆に枯渇してしまったりするのは、多くの場合、心身の健康や生活といった『土台』が不安定だからです。たとえ高い意欲(ドーパミン)を生み出す潜在能力があったとしても、その土台自体が崩れていては、その力をうまく発揮することはできませんよね。

記事⑦でも触れた「根本原因」を、もう一度おさらいしましょう。

  1. 心身の土台(セロトニン): 睡眠不足、栄養の偏り、運動不足。これが崩れると、理性的な判断力が低下し、衝動的な快楽に流れやすくなります。

  2. 感情の土台(オキシトシン): 「孤独」や「現実への不満」を抱えていると、その心の隙を埋めるために、手軽なドーパミン(お酒、SNS、ゲームなど)に逃げ込みやすくなります。

ドーパミン(やる気・達成感)を活用する前に、まずはこの2つの土台を安定させることが不可欠です。

  • しっかり寝て、バランスよく食べる。(セロトニン)

  • 信頼できる人と話し、安心できる時間を持つ。(オキシトシン)

  • 刺激から離れる「休息」を取り、脳の感度をリセットする。(記事⑤

この土台が整って初めて、僕らのドーパミン・エンジンは健全な「やる気」として機能し始めます。

土台が整うと、記事⑦で触れた「持て余したエネルギー」が湧いてきます。ADHDの脳は、本質的に「何かを成し遂げたい」衝動が強いのです。
問題は、そのエネルギーをどこに向けるか。 ここでドーパミンの性質を逆手に取り、「健全なドーパミン中毒」を意図的に作り出します。

まずは、行動の「意味付け」を明確にします。ドーパミンは、「目標を達成できそうだ」と感じた時に最も強く分泌されます。 「面倒だな」と思う作業でも、その先にある「ワクワクする未来」が明確であれば、脳はドーパミンを出してくれます。

  • NG例: 「(面倒だけど)資格の勉強をしなきゃ…」

  • OK例: 「この資格を取れば、給料が上がって、家族と旅行に行ける!(ワクワク)」

「なぜ、それをやるのか?」という本質的な意味を、自分の感情が動くレベルで明確にしましょう。

次に、目標を「徹底的に細分化」してください。ADHDの脳は、ゴールが遠すぎるとドーパミンが出にくい特性があります。「1年後に10kg痩せる」と言われても、脳は「遠すぎて無理」と判断し、やる気スイッチが入りません。年単位の目標を、月、週、日、そして「今すぐできる5分の作業」まで細分化します。

  • NG例: 「部屋を片付ける」

  • OK例: 「①まず、机の上にあるゴミを捨てる」
    「②次に、本棚の本を一冊だけ戻す」
    「③次に…」

この「小さな達成感」を積み重ねることが、ドーパミンを持続させる最大の秘訣です。

最後に、「ご褒美の順番」を徹底します。ドーパミンの性質を利用した強力なルールが、「プレマック原理」です。 簡単に言えば、「(嫌なこと)の後に、(好きなこと)をやる」という順番を徹底すること。

  • NG例: 「YouTubeを少し見て(高ドーパミン)から、勉強する(低ドーパミン)」

    • → 脳はもう満足しているので、勉強へのドーパミンは出ません。

  • OK例: 「勉強を25分やって(努力)から、YouTubeを10分見る(ご褒美)」

    • → 脳は「勉強=ご褒美がもらえる」と学習し、次も勉強に取り組みやすくなります。

この順番を守るだけで、脳はあなたの目標達成を応援してくれるようになります。

僕らは、ドーパミンが出にくいのではなく、むしろ「求めすぎる」あまりに脳が疲れ切り、耐性ができてしまっていたのかもしれません。

でも、安心してください。脳には「可塑性(かそせい)」があります。脳は粘土のように、経験や学習、環境によって、その配線や構造自体を変えることができるのです。ドーパミン中毒で脳の機能が低下していたとしても、生活習慣(土台)を見直し、意図的に刺激から離れ(デトックス)、目標達成のためにドーパミンを活用する(意味付け・細分化・順番)ことで、脳は必ず良い方向へ変化していけます。

ADHDの特性は「治す」ものではなく、「理解し、使いこなす」もの。 あなたのその「ドーパミンを求める強い衝動」は、決して弱点ではなく、人生を切り拓くための最も強力な「エンジン」なのです。

このシリーズが、あなたがご自身の脳の取扱説明書を手に入れ、そのエンジンを輝かせるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

ADHDとドーパミンを巡る長い旅は、これで終わりです。8話にもわたる長編をお読みいただき本当にありがとうございました。

次回からは、ついに完成した凸凹ADHDシステムについてのシリーズを始めます。この4か月間はNoteを書きながら、その裏では、ADHDの人が自分の最高の理解者になるために自己理解を深められるシステムを作ろうと、自己分析ができるサイトを制作しておりました。リリースは11月12日を予定しております。こちらに関しても、ADHDの方の自己理解を深めるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

【ADHDとドーパミン】シリーズの最初の記事はこちら

【ADHDとドーパミン】シリーズはこちら
①ADHDの脳の「支配者」
②短期的な快楽に飲み込まれる
③運動という名の「脳のお薬」
④「社会的ドーパミン」を得よう!
⑤ドーパミンと休息
⑥ドーパミンデトックス
⑦ドーパミン中毒と隠れた原因
⑧最終的なドーパミンとの付き合い方

【ADHD離婚からの再生】シリーズ
※過去のシリーズですがドーパミンに深く関係しています。
①ADHDの禁酒と禁煙
②禁酒後の新しい世界
③「動」と「静」で脳を整える
④運動は「最高の処方箋」
⑤習慣化できますか?
⑥「失敗だらけの過去」の意味

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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