
自分の「トリセツ」をパートナーに渡そう
【ADHD人間関係④】
これまでの記事で、僕らは人間関係のすれ違いを減らすための、具体的なコミュニケーション術を学んできました。 「なぜ」ではなく「何を」で話し、言葉の前に「クッション」を置く。 これらは、問題が起きてしまった時に、そのダメージを最小限に食い止めるための、非常に強力な「防御」のスキルです。
しかし、ふと、こう思いませんか?
「そもそも、このすれ違い自体を、もっと減らせないだろうか?」
「問題が起きてから対処するのではなく、問題が起きにくい関係を、最初から作れないだろうか?」と。
ADHDの僕らはいつも、何か問題が起きてから、慌てて自分の特性を説明しようとします。 しかし、相手が感情的になっている時に、僕らの言葉は「言い訳」にしか聞こえません。
今日は、僕らが大切な人(恋人・パートナー)と、穏やかで揺るぎない信頼関係を築くための、効果的な「攻め」の戦略についてお話しします。
僕らがやるべきこと。それは問題が起きていない、お互いが穏やかな時に、自分という人間の「取扱説明書」を、大切な人に渡しておくというのはどうでしょうか?
これは「僕はADHDだから、多めに見てね」という甘えの要求ではありません。 「これが僕の脳の仕様です。この仕様を理解して協力してくれると、僕らはもっとうまくやっていけるはずなんだ」という、最高のチームを作るための、前向きな提案なのです。トリセツを作って渡すという試みはADHDでは無い人にも良いかもしれないですね。
ただ、いきなり「僕のトリセツです」と言っても、何を伝えればいいか分かりませんよね。 まずはシンプルに、以下の3つの要素を、正直に、そして具体的に伝えてみてはどうでしょう。
1.苦手なことと、得意なこと
まず、自分の脳の「仕様」を伝えます。
「口で言われただけの約束は、すぐに記憶から抜け落ちてしまうことがあるんだ」
「僕は、新しいアイデアを出すのは得意なんだけど、細かい作業を続けるのは苦手なんだ」
2.誤解されがちな行動と、その「本当の理由」
次に、よくあるすれ違いのパターンを先回りして解説します。
「話の途中で割り込んでしまったら、ごめん。あなたの話を軽んじているわけじゃなくて、今言わないと忘れちゃう!って脳がパニックになるんだ」 「急に黙り込んでしまうことがあるけど、怒っているわけじゃないんだ。頭の中で情報が渋滞していて、処理に時間がかかっているだけなんだ」
3.「こうしてくれると、すごく助かる」という具体的なお願い
これが重要です。相手に「どうすればいいか」という、具体的な行動の選択肢を渡してあげるのです。
「大事な約束は口で言うのと一緒に、LINEで一言送ってくれるとすごく助かる」
「もし話に割り込んだら、『後で聞くから、ちょっと待ってて』って、ブレーキをかけてくれると嬉しい」
このような会話は、ケンカの途中ではなく、二人でリラックスしている時に切り出しましょう。 そして、「あなたを責めているんじゃない。僕らの関係を、もっと良くしたいんだ」というスタンスで話すことが大切です。これは、一度話したら終わりではありません。 お互いに「トリセツ」を更新し合い、理解を深めていく継続的なプロセスが重要です。パートナーとそんな時間が月に一度でも取れると二人の人間関係はより良いものになるはずです。
この対話ができるようになると、相手はあなたの「一番の理解者」に変わります。 そして二人の関係は、「問題が起きるたびに揺らぐ関係」から、「問題が起きるたびに、一緒に解決策を探せるチーム」へと、進化していくのです。
このトリセツを作成するというのは、それだけで膨大な自己分析が必要になるかと思いますが、今日の記事に沿って簡単に自分のトリセツを書き出してみました。
※長いので暇な人だけ読んでください。
【デコさんのトリセツ】
1.「苦手なこと」
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口で言われただけの約束を悪気なく忘れてしまうことがある。
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話の途中で急に黙り込んでしまうことがある(脳内で渋滞)
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議論になると、正論を主張してしまうことがある。
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興味のないこと(単純作業など)を後回しにしてしまう癖がある。
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作業時間の見積もりが、とりあえず甘い。
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一つのことに集中すると、周りの音が本当に聞こえなくなる。
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部屋や机の上が、散らかっていても気にならない。
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会話の途中で、話が脱線してしまう。
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相手の話の結論が見えると、話を遮ってしまうことがある。
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〆切がないと、なかなか動けない。
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雰囲気や、その場のノリで安請け合いをしてしまうことがある。
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興味のない話に、気の利いた返事ができない。
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「普通はこうだよね」という、暗黙のルールを、理解するのが苦手。
2.「得意なこと」
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ハプニングも、「面白い!」と笑い飛ばせること。楽観主義。
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初対面の人ばかりのパーティーでも問題無い。人見知りをしない。
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エネルギッシュで明るくいられること。
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ケンカしても、次の日にはケロッと忘れてしまえること。
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落ち込んでも、早く立ち直れること。
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理不尽なことで心を痛めている人に深く共感し腹を立てられること。
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好きなことなら、没頭して高い知識を手に入れられること。
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悩むより先に、まず行動できること。
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年齢に関係なく、子供のような好奇心を持っていること。
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自分の「好き」という気持ちに嘘がつけない正直さ。
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誰もやったことないようなことをやるのが好きなところ。
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常識にとらわれず、面白い「未来」を想像すること。
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誰かが決めた「普通」ではなく、自分だけの「幸せ」の形を作れること。
3.誤解されがちな行動と、その「本当の理由」
1. 大事な約束や記念日を、忘れてしまう
誤解: 「私のこと、もう、どうでもいいんだ…」
本当の理由: 脳の「短期記憶(ワーキングメモリ)」は、常に情報で溢れかえっています。「新しさ」や「刺激の強さ」で記憶の優先順位が決まってしまう。あなたへの愛情とは、全く関係がないのです。
2. 話の途中で、つい割り込んでしまう
誤解: 「人の話を聞かない、自己中心的な人」
本当の理由: 次から次へと、新しいアイデアを思いつきます。しかし、そのアイデアを、脳の小さな「机(ワーキングメモリ)」の上に、長く置いておくことができない。「今、言わないと、絶対に忘れる!」という、脳の、必死の叫びです。
3. 悪気なく、待ち合わせに遅刻する
誤解: 「私の時間を、尊重していない」
本当の理由: 「時間」という、目に見えないものの長さを、体感で、正確に測るのが苦手です(タイムブラインドネス)。「あと5分」が、気づけば「30分」になっている。それは、ADHDの人の脳内で起きている不思議な時間の歪みです。
4. 部屋や机の上が、いつも散らかっている
誤解: 「だらしない、怠け者」
本当の理由: 「片付ける」という行為は、僕らの脳には、「①何を捨てるか決める」「②どこに分類するか考える」「③それを、元の場所に戻す」という、無数のタスクの集合体に見えています。その、あまりの複雑さにフリーズしてしまうのです。
5. 新しい趣味や仕事を、始めてはすぐにやめてしまう
誤解: 「飽きっぽくて、中途半端な人」
本当の理由: 常に、ドーパミンという「燃料」を求めています。そして、その燃料は、物事の「0→1(新しい発見)」の段階で、最も多く放出される。地道な「1→100」の作業では、燃料が枯渇してしまうのです。
6. 話しかけても、上の空で、聞いていない時がある
誤解: 「私を、無視している」
本当の理由: ADHDの脳の注意は、たった一つの対象を照らし出す「スポットライト」です。何かに集中している時、あなたの声は、本当に、僕らの脳には「届いていない」のです。
7. 「やる」と言ったことを、やらない
誤解: 「嘘つきで、無責任な人」
本当の理由: 「やる」と言った、その瞬間。僕らの脳は、本気で、そう思っています。しかし、「未来」のタスクを実行するための「エネルギー」を、脳がうまく供給できないのです。
8. 自分の趣味や仕事に没頭しすぎる
誤解: 「私よりも、自分のことが、大事なんだ」
本当の理由: 趣味や仕事は、僕らにとって、単なる「娯楽」ではありません。それは、僕らの脳に、ドーパミンという、生きるための「燃料」を補給するための、非常に重要な「生命維持活動」なのです。
9. 会話の話題が、あちこちに飛ぶ
誤解: 「話が、まとまらない人」
本当の理由: ADHDの脳は、一つの言葉から、次々と、関連する(しかし、他の人には、そうは見えない)アイデアを、連想する、非常に優秀な「アイデア生成エンジン」を搭載しているのです。
10. 言葉が、ストレートすぎる時がある
誤解: 「デリカシーがない、思いやりのない人」
本当の理由: ADHDの脳は、思考と発言を直結させてしまいます。頭に浮かんだ「真実」が、相手の感情を処理するフィルターを通らずに、そのまま、口から出てしまうのです。
11. 重要な決断を、先延ばしにする
誤解: 「優柔不断で、頼りない」
本当の理由: 重要な決断は、あまりにも、考えるべき要素が、多すぎます。その、膨大な情報量に、僕らの脳の「机(ワーキングメモリ)」は、完全に、フリーズしてしまうのです。
12. ケンカしたことを、次の日には、ケロッと忘れている
誤解: 「反省していない。私の痛みを、軽んじている」
本当の理由: ADHDの脳は、ネガティブな感情を、長く、記憶しておくのが苦手です。それは、あなたを軽んじているのではなく、過去の痛みを引きずらずに、常に「今」を、新しい気持ちで始められる、脳の「自己防衛機能」なのです。
13. 謝りながら、なぜか、言い訳をしてしまう
誤解: 「自分が悪いと、思っていない」
本当の理由: 僕らの脳は、問題が起きると、自動的に「探偵モード」に入ります。「なぜ、この問題が起きたのか」という、原因を、必死に分析しているだけなのです。相手の「感情」ではなく、問題の「事実」に、ピントが合ってしまっているのです。
14. 自分の好きなことだけを、延々と話してしまう
誤解: 「自分のことしか、考えていない」
本当の理由: 僕らの脳は、「好き」という感情が、ドーパミンという、最高のガソリンになることを知っています。その最高の興奮を「共有」したい。ただ、その一心なのです。
3.「こうしてくれると、すごく助かる」
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大事な約束は、口で言うのと一緒にLINEで送ってほしい。
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僕が黙り込んだら「今、脳内会議中?」って、突っ込んでほしい。
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僕が正論のナイフを振り回し始めたら、「タイムアウト!まず、ハグしよう」って止めてほしい。
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僕が何かを先延ばしにしていたら、「一緒に、やってみない?」と、最初の「一歩」を、手伝ってほしい。
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部屋の片付けは、「掃除の時間」として、学校みたいに一緒にやってくれたら嬉しい。
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僕の話が脱線し始めたら、「その話後で、じっくり聞かせて。で、さっきの話なんだけど…」といった具合に本筋に戻してほしい。
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僕が話を遮ってしまったら、「後で聞くから、ちょっとだけ待ってて」といった具合に本筋に戻してほしい。
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僕が何か新しいことに挑戦しようとしていたら、「失敗しても、大丈夫だよ」と背中を押してほしい。
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僕の「トリセツ」は、まだ、バージョン1.0です。これからも、一緒に、最高の「二人だけのトリセツ」を作っていってくれたら、最高に幸せです。
最後まで読んでくれてありがとうございます♪
【ADHD人間関係シリーズ】
①僕らの「当たり前」は相手の「当たり前」ではない
②「なぜ」ではなく「何」で話そう
③クッション言葉はマジで優秀!
④自分の「トリセツ」をパートナーに渡そう
⑤大切なパートナーの「トリセツ」も作ろう。
⑥パートナーの「本音」を聞くのが怖い
⑦彼女とのトリセツ会議
⑧パートナーにも指摘された「ごめん」
⑨「ありがとう」に心を乗せる方法
⑩ついに完成。パートナーの「トリセツ」