
「動」と「静」で脳を整える【ADHD離婚からの再生③】
酒をやめ、新しい人々と出会い、僕は人生の「外側」を、少しずつ塗り替えていくことができました。 しかし、僕の内側、つまり「頭の中」は、依然として騒がしかったのです。
次から次へと湧き出る思考や未来への漠然とした不安、そして、何をするでもなく落ち着かないソワソワ感。 ADHDの脳が持つ、この「内なる多動性」と、どう向き合えばいいのか。僕に残された最後の、そして大きな課題でした。
はじめまして、「凸凹ADHD」のデコです。 これは、僕が長年の「脳のノイズ」を静め、本当の意味での「心の平穏」を手に入れるまでの物語です。
僕の脳は、常に「エネルギー過剰」だった
子供の頃、僕は、じっとしているのが苦手な「多動」な子供でした。 大人になるにつれ、その多動性は、体の動きではなく、「頭の中の多動」へと姿を変えていきました。常に思考が駆け巡り、あれやこれやと考えてしまいます。 一つのことに集中しようとしても、別の思考が割り込んでくる。 このエネルギー過剰な状態が、僕を創造的な活動へ駆り立てる一方で、僕をひどく疲れさせていることにも、気づいていました。
これまで試してきた「新しい刺激」(英会話カフェなど)は、この過剰なエネルギーを、ポジティブな方向へ「発散」させるためのものでした。 しかし、僕が必要としていたのは、エネルギーの「発散」だけではありませんでした。 そのエネルギーそのものを「鎮め」、自分自身を「制御」する感覚だったのです。
僕が「走り始めた」本当の理由
その答えは、意外なほどシンプルな場所にありました。 友人との約束で始めた、「皇居ラン」です。
正直に言って、最初は、走ること自体が苦痛でした。 「なぜ、お金ももらえないのに、こんなにしんどいことを…」 何度、途中で歩き出したいと思ったか分かりません。
しかし、10キロを走り終え、汗だくで地面に座り込んだ時、僕は、これまで感じたことのない、ある不思議な感覚に包まれました。
それは、「静寂」でした。
あれほど騒がしかった頭の中が、シーンと静まり返っている。 脳のノイズが消え、思考がクリアになっている。 体は極度に疲れているのに、心は、まるで澄み切った湖の水面のように、穏やかでした。この時、僕は、身をもって理解したのです。 ADHDの「多動性」という有り余るエネルギーは、肉体を極限まで動かすことで、初めて健全に燃焼し、消費されるのだと。エネルギーが過剰であれば運動でそのエネルギーを消費するんです。
僕の脳は、運動という行為を通じて、幸せホルモンと呼ばれるドーパミンやセロトニンを、自ら作り出していました。それは、僕が長年、アルコールや外部の刺激に求めてきた「多幸感」や「心の安定」そのものでした。
「動」と「静」で、脳をととのえる
走ることが、脳のエネルギーを燃焼させる「動」のメンテナンスだとすれば、ヨガは、その後の脳を静かに観察する「静」のメンテナンスでした。
ポーズをとり、自分の呼吸だけに意識を向ける。 次から次へと湧き出る思考を、良い・悪いで判断せず、ただ「ああ、今、こんなことを考えているな」と、他人事のように眺める。この「動」と「静」の習慣は、僕の人生を劇的に変えました。
それは、僕にとって、単なる健康法や趣味ではありません。 自分の「脳の状態」を、自分の意志でコントロールするための、最も効果的で、具体的な「技術」だったのです。特に「動」と「静」の運動をミックスすることは僕にとってはとても効果が高かったと思います。「ランニング」×「ヨガ」もそうですが、「ハイキング」をした後に「温泉」に入るだったり、「動」と「静」いろいろな組み合わせが可能です。最近では、それらを意識して予定を組むことが多くなっています。
真の再生とは、ただ新しい自分になることではありません。 それは、自分自身の「脳の取扱説明書」を理解し、その時々の状態に合わせて、最適なメンテナンスを施してあげることなのだと思います。
もし、あなたの頭の中が、常に騒がしく、落ち着かないのなら。 それは、あなたの脳が、有り余るほどの素晴らしいエネルギーを持っている証拠です。 そのエネルギーを、自己嫌悪で消費するのではなく、ほんの少しだけ、体を動かすことに使ってみませんか?僕の経験を参考に、「動」と「静」のエクササイズなどをはじめてみてください。
汗をかき、息を切らしたその先に、あなたがずっと探し求めていた、穏やかで、力強い「本当の自分」が、待っているのかもしれません。